息子がアメリカで生まれ、自閉スペクトラム症と診断されるまで

7月はアメリカではDisability Pride Month(障害者プライド月間)です。6月のLGBTQ Pride Monthに比べて知名度が低い気がしますね。うちには2歳の息子がいますが、息子は自閉スペクトラム症(ASD)という障害があります。以前は単に自閉症と呼ばれていたようです。息子はアメリカで生まれており、せっかくなのでアメリカで生まれた子がASDと診断されるまでの体験談をまとめておこうかと思います。あまりいないと思いますが似たような境遇の方の参考になれば幸いです。

自閉スペクトラム症とは?

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)は、対人関係が苦手・強いこだわりといった特徴をもつ発達障害の一つです。割合としては68人に1人がなり、男性の方が女性よりも5倍多いらしいです。原因は不明ですが、遺伝と環境要因の組み合わせと考えられているようです。障害なので一生治ることはありませんが、各種セラピーを通じて発達を促すことは可能で、なるべく早期に始めるのがいいとされています。詳細は他のサイトを読んでみて下さい。

自閉スペクトラム症とは - 原因、症状、治療方法などの解説 | すまいるナビゲーター | 大塚製薬

KaiserのASDの紹介ページ(英語)

生まれるまで

妻の妊娠が判明してからKaiserの病院の産婦人科にお世話になっていました。幸運にも近くの病院には日本人の先生がおり、その方にずっと診てもらっていました。しかも奇跡的に出産当日に妻が入院した病院におられ、息子の出産を手掛けていただきました。出生前検査もしましたが特に問題なく、生まれたのも39週目で、当日も問題なく順調に産まれました。無痛分娩で次の日には回復したので、1日で退院しました。高齢出産だとASDのリスクも上がるらしいですが、妻はこれにも該当しませんでした。ちなみに出生前検査ではASDなどの発達障害は分かりません。

最初の違和感

1歳の頃までは順調に育っていて特に何も思わなかったのですが、最初に違和感を持ったのは歩くのが遅いことでした。ハイハイからつかまり立ちは10ヶ月くらいにしたので、そろそろ歩くかなと思っていたのですが、つかまり立ちから全く歩く気配がなく、成長につれハイハイがどんどん高速になるだけでした。周りの子はもうみんな歩けるようになっているのに、1歳4ヶ月くらいまでこの調子だったので、焦りもあり手をとって歩く練習を始めました。すると1ヶ月くらいでなんとか自力で歩けるようになりました。これ以外にも指差しをしなかったり、公園で他の子が近づいて来てもガン無視したり、偏食が激しかったりと、周りの子に比べて色々気になることが出てきました。

1歳半検診

1歳半検診の時に発達について確認するためのアンケートに色々答えました。歩くか、指差しするか、ボールを投げるか、発語はあるかといった内容だったと思います。医者がそれを確認し、発語がないのが気になるのでより詳細なEarly Developmental Screening Program(EDSP)のアンケートに答えるよう言われました。

EDSPのアンケート結果

このアンケートにはAges and Stages Questionnaire (ASQ-3)Modified Checklist for Autism in Toddlers - Revised (MCHAT-R)の内容が含まれており、それらの結果によると息子はコミュニケーション力、問題解決力、社会性が低く、ASDのリスクが高いので、サンフランシスコにあるKaiserのAutism Spectrum Disorder (ASD) Centerを紹介され、そこでより詳細な検査を受けるよう言われました。同時にKaiserのSpeech Therapy Departmentも紹介され、スピーチセラピーを開始するよう言われました。まだASDと確定したわけではなかったのですが、高リスクと知って結構ショックでした。それまでASDについて何となく聞いたことあるくらいで詳細なことは知らなかったので、ネットで色々調べ始めました。 ASDについて調べるとこれは息子の説明書かと思うくらい見事に息子の特徴がいくつも書かれており驚きました。この時点で息子はおそらくASDなんだろうなと思いました。

ASD Centerによる詳細な検査

後日ASD Centerの医師によりZoomで2時間ほどの検査を受けました。最初の1時間は息子に色々な指示を出したり妻と遊ぶ様子を医師が観察し、残りの1時間で色々な質問をされました。最後に結果が伝えられ、一歳半時点ではまだできることが限られているので断言できないが、息子はやはりASDの可能性が高いので現時点では軽度のASDと診断して各種セラピーを受けるのがいいと言われました。幸い現時点では知的障害は認められないとのことでした(ASDを持つ人のうち65%は知的障害がないらしいです)。後日ASDの診断書をもらいました。

セラピー

その後KaiserのPediatric Developmental Disabilities Officeから連絡があり、Kaiser経由で外部のASDのセラピーを受けるよう言われました。Kaiser自体はセラピーを提供しておらず、外部のプロバイダーに頼っているようです。保険はKaiserの保険が使えます。 その後BHPNという所から連絡があり、Applied Behavior Analysis (ABA)を開始したいのでまずはアセスメントを受けてほしいと連絡が来ました。 これと並行してKaiserから紹介されたSpeech, Incという所からも連絡があり、週に1回のスピーチセラピーを開始しました。 またKaiserとは別にカリフォルニア州にはリージョナルセンターという発達障害の子を支援するNPOがあり、Early Start Programという名前で各種セラピーを提供しているので連絡しなさいと言われました。ここでもアセスメントを受け、2歳近くだったのですがまだ認知能力などが1歳程度と言われ、セラピーを受けることになりました。

失業してセラピー中断

アメリカでの転職活動2022 - shinichy's blog でも書きましたが、色々なセラピーを開始しようとしている最中に会社が潰れてしまい、会社経由で入っていたKaiserの保険も使えなくなってしまいました。BHPNはアセスメントを受けてABAを開始しようとしていましたが、Kaiserの保険がなくなったことで中止され、週1回のスピーチセラピーも中止されてしまいました。リージョナルセンターはKaiserの保険とは関係ないのでこの影響を受けず、現在はリージョナルセンターから紹介されたhttps://speechgoals.com/ という会社のセラピーを受けています。

現在の息子

1歳半検診を受けた頃は単語もほとんど話せなかったのですが、スピーチセラピーの甲斐もあってか徐々に言葉を話し始め、現在2歳の息子は2語文もよく話し、稀に3語文も話すようになりました。全然やらなかったバイバイや指差しもやるようになったり、お皿を運んだり簡単なお手伝いもできるようになりゆっくりですが確実に成長しています。社交性の面でも最近は少し他の子が気になるのかじっと見たりもしています。 偏食がひどいのはなかなか変わらず、ご飯、バナナ、ヨーグルト、マカロニチーズなどの数種類の決まったものしか食べず、なかなか新しい食べ物を食べようとしません。 今後どう成長していくか分かりませんが、各種セラピーに頼りながら息子の苦手な所を徐々に克服していってくれると嬉しいです。

サポートグループ

KaiserからはSan Mateo CountyのFamily Resource Centerのサポートグループを紹介されました。月1回親だけが夜に集まっているようですが、ちょっと時間帯的に行きづらいのでまだ参加していません。ベイエリアスペシャルニーズのある日本人が集まるFacebookグループもあり、そこに参加して色々情報を教えていただきました。アメリカでも日本人のサポートグループがあるのは心強いです。 www.facebook.com

ASDに関する書籍

息子がASDと診断されてから様々な書籍を読みましたが、東田直樹さんの「自閉症の僕が跳びはねる理由」が一番おすすめです。東田さんは重度のASDで喋ることができないにも関わらず、パソコンと文字盤ポインティングで自力でコミュニケーションを取ることができ、ASDに対する様々な疑問(例えばなぜASDの人は偏食なのかなど)に対して当事者の立場から回答しています。この本を読んで息子の数々の謎の行動について少し理解できた気がしました。世界中でベストセラーになっており、ASD Centerの医師からも最初の一冊としてお薦めされました。2巻ありますが、個人的には最初の1巻だけ読めば十分かと思います。 www.amazon.co.jp